東京都足立区の北千住たきいし司法書士事務所です。
最近は終活についての認知度が上がり、遺言書を書くことを検討されている方も多いと思います。
自分がこの世を去った後で、親族同士が争うことがないように、元気なうちに遺言を作っておくことは非常に大切です。
この記事では、遺言書を書こうか迷っている方向けに、比較的作成のしやすい自筆証書遺言の書き方と文例をご紹介します。
遺言書の書き方
主な遺言書の形式
主な遺言書の形式として、自筆証書遺言と公正証書遺言が利用されます。
自筆証書遺言は、いつでも作成ができ、費用もかかりませんが、変造や隠匿の可能性があります。
公正証書遺言は、公証役場で作成するため、時間と費用がかかりますが、公証役場で保管されるため、変造や隠匿の恐れがありません。
どちらもメリットとデメリットがありますが、今回は比較的作成のしやすい自筆証書遺言について紹介します。
自筆証書遺言のルール
自筆証書遺言は、遺言者が、遺言の本文、日付及び氏名を自書し、これに印鑑を押さなければなりません(民法968条1項)。
ただし、財産目録については自書ではなく、不動産の登記簿謄本のコピーなどを添付して1枚ずつ署名捺印をしても問題ありません(民法968条2項)
自筆証書遺言を作るために必要なもの
必要なものは、筆記用具、紙、自分の印鑑です。
筆記用具については、ボールペン、万年筆、筆ペンなどなんでも大丈夫ですが、遺言書は長期間保存しますので、書いた文字が長持ちする筆記用具を使用することが望ましいでしょう。
用紙についても、大きさや材質の指定はありませんが、法務局の自筆証書遺言補完制度を利用する場合は、A4サイズの用紙を使用し、余白の大きさやページ番号などの指定を守らなければいけません。
参考 法務省自筆証書遺言補完制度
自分の印鑑については、認印で問題ありませんが、実印を使用することが無難です。
遺言書を書く流れ
遺言書の本文を自分で書きます。
代筆は認められていないため、文字を書くことができない人は、公正証書遺言を作成することになります。
日付を書きます。
必ず〇年〇月〇日と具体的な日付がわかるように書いてください。
署名をします。
必ず自分の名前を自書してください。
誰が書いたか分かればいいため、ペンネームでもいいのですが、本名を書いたほうが無難です。
印鑑を押します。
封筒に入れる?
必ずしも封筒に入れる必要はありませんが、遺言書を自宅で保管していて、誰かに内容を見られたくない場合は、封筒に入れたほうがいいでしょう。
保管場所をどうする?
自宅や銀行の貸金庫で保管する、法務局の遺言書補完制度を利用することが検討できます。
銀行の貸金庫であれば、亡くなった後で親族が貸金庫を開けることが想定されるので、遺言書が見つからないという事態を避けることができます。
法務局の遺言書補完制度を利用すれば、遺言者が亡くなった後で、遺言者が指定した人に遺言書が保管されていることを知らせしてくれる指定通知がありますので、遺言書が見つからないという事態を避けることができます。
参考 遺言者が指定した方への通知(指定通知)について
遺言書の文例
遺言書で書くこと
特に何を書かなければいけないという決まりはありませんが、主に相続分の指定、遺贈、認知、遺言執行者の指定などが書かれます。
また、法的効力はありませんが、付言事項として、遺言者の感謝や願いを書くこともできます。
参考として、遺言で法的効力がある事項は、以下のとおりです。
①相続に関する法定事項の修正
・推定相続人の廃除、排除の取消し(民法893条、894条2項)
・祖先の祭祀承継者の指定(民法897条1項ただし書)
・相続分の指定(民法902条)
・特別受益の持戻しの免除(民法908条1項前段)
・遺産分割の禁止(民法908条1項後段)
・遺産分割における相続人相互の担保責任の指定(民法914条)
・遺留分侵害額の負担の指定(民法1047条1項2号ただし書)
②相続以外の財産処分に関する事項
・遺贈(民法964条)
・信託の指定(信託法3条2号)
・生命保険金の受取人の変更(保険法44条)
・一般財団法人設立のための定款作成(一般社団法人法152条2項)
③身分関係に関する事項
・認知(民法781条2項)
・未成年後見人の指定(民法839条1項)
・未成年後見監督人の指定(民法848条)
④遺言の執行に関する事項
・遺言執行者の指定とその委託(民法1006条1項)
もっともシンプルな遺言書
※1 タイトルとして「遺言書」と書きます。
「遺言書」あるいは「遺言状」といったタイトルは必須ではありませんが、遺言書であることをわかりやすくするために書きましょう。
※2 「〇〇に相続させる」と書きます。
「与える」「ゆずる」などと書くと、贈与とみなされる可能性があるため、注意してください。
遺言書の文例
①相続分の指定
・不動産の相続
「遺言者は、遺言者の有する別紙1の不動産を、遺言者の長男である〇〇(昭和×年×月×日生)に相続させる。」
・相続させたい人が、遺言者より前に亡くなった場合へのそなえ
「〇〇が遺言者より前にまたは遺言者と同時に死亡した場合は、●●に相続させる(相続人以外の場合は遺贈する)。
・預貯金の相続
「遺言者の有する預貯金(〇銀行〇支店、普通口座、番号00000)長女●●(×年×月×日生)、二女△△(×年×月×日生)にそれぞれ1千万円を相続させる。」
・株式の相続
「遺言者は、遺言者が有する以下の株式を妻〇〇に相続させる。
株式会社●証券 ●支店 口座番号00000
株式会社△ 普通株式 1000株」
②遺贈
「私の一切の財産を法人〇〇(住所:□県□市□区~)に遺贈します。」
③認知
「遺言者は次の者を、〇〇との間の子として認知します。
山田一郎(本籍:□県□市1-2-3、×年×月×日生)」
④遺言執行者の指定
「遺言者は、この遺言の遺言執行者を次の人に指定、依頼しました。
司 法 書 士 〇〇(×年×月×日生)
〇〇司法書士事務所 □県□市1-2-3 △ビル2F」
⑤祭祀財産の承継者の指定
「遺言者は、祖先の祭祀を主宰する者として、長男〇〇を指定します。」
おわりに
自筆証書遺言の書き方と文例について取り上げましたが、遺言書を書こと自体を「自分がこの世を去った後のことを考えること」ととらえてしまい、必要だと思ってもなかなか取り組めないという方が多いと思います。
しかし、自分がこの世を去った後も身の回りにいる大切な人たちの生活は続いていきます。
遺言書は、自分のために書くものではなく、残された大切な人たちのために残すものです。
遺言書を書くことをきっかけに、自分の人生を振り返り、大切な人たちの未来について考えてみませんか。