東京都足立区の北千住たきいし司法書士事務所です。
不動産決済立会業務について、全体の流れと私が注意していることを解説します。
不動産決済立会業務とは?
不動産売買において、登記はとても重要です。
買主が、売主から不動産の権利を取得したという事実は、登記をしなければ第三者に対抗できません。
また、購入した不動産に抵当権の設定登記をすることが、金融機関の融資条件になっています。
司法書士は、不動産売買の当事者が集まり、売買代金の支払いや不動産の引渡し(鍵の引渡し)等を行う不動産決済に立会うことで、取引の安全を担保する役割があります。
具体的にどのようなことをするかというと、売主及び買主の本人確認、意思確認、登記に必要な書類の確認を行い、登記の準備が整ったタイミングで送金をお願いします。
安全に手続きを進めるためには、決済日当日までにどれだけ準備ができるかが重要になります。
事前打ち合わせ
依頼元の担当者と打ち合わせ
売買契約が終わり、決済日が近くなったタイミングで依頼がきます。
依頼元は、不動産会社、又は、金融機関が多いです。
今回は、不動産会社からの依頼を想定して説明します。
依頼元の担当者からわかる範囲で、不動産決済の日時、場所、買主及び売主の決済当日の出欠の有無、買主は事前に購入物件の住所に住民票を移すのか、売主の住所は登記上の住所から変更があるか、買主が融資を利用する場合には融資金融機関の連絡先、売買不動産に抵当権が設定されている場合には抹消金融機関の連絡先、融資金融機関の指定事務所がある場合には他の司法書士事務所の連絡先を聞き取ります。
また、次の資料の中で手元にあるものを送ってもらうようにお願いします。
- 売買契約書:売買の当事者である売主及び買主、対象物件、契約内容の確認を行います
- 謄本(登記事項証明書又は登記情報):売買契約書の内容と照らし合わせて間違いがないか確認します
- 評価証明書:決済日の対象年度のものを送ってもらい、登録免許税を算出します
- 売主の権利書(登記済証又は登記識別情報通知)、印鑑証明書:可能であれば送ってもらい、名変登記や本人確認情報の作成が必要かを確認します
- 売主及び買主の身分証明書:可能であれば送ってもらい、有効期限や住所氏名の確認をします
融資金融機関、抹消金融機関、他の司法書士事務所と打ち合わせ
融資金融機関
買主が融資を利用する場合には、融資先金融機関に連絡し、抵当権設定書類の受け取り方法、決済日当日の流れ等を確認します。
融資の実行方法が、立会決済ではなく、登記申請後に受領証を確認して実行(受領証実行)の場合には、決済日当日までに必要書類を預からなければいけないため、注意が必要です。
抹消金融機関
売買不動産に抵当権が設定されている場合には、抹消金融機関に連絡し、次の内容を確認します。
- 抵当権抹消書類の代理受領は可能か?
➡代理受領ができない場合には、売主に抹消金融機関に同行してもらい、書類を受け取ります - 代理受領に必要な書類は何か?
➡売主の委任状及び印鑑証明書(提示して還付してもらえるか確認)、会員証又は補助者証、認印が必要になる場合が多いです。売主が事前に、代理受領する司法書士事務所を記載した委任状を抹消金融機関に送らなければならない場合もあります - 抹消書類を受領する支店はどこか?
➡遠方の場合には、決済場所又は事務所近くの支店に書類を送ってもらえないかお願いします。自分で受領することが難しい場合には、現地の事務所の協力が必要になる可能性があります - 抹消書類を読み合わせできるのはいつごろか?
➡基本的に、抹消書類金融機関は、決済場所に来ないため、事前に抹消書類がそろっていることを電話等で確認します
他の司法書士事務所
融資金融機関の指定事務所がある場合には、他の司法書士事務所に連絡し、申請方法や決済の日程等を確認します。
必要書類、登記費用の案内をする
必要書類
ある程度打ち合わせが進んだタイミングで不動産会社に案内します。
必要書類は、事前にワードで一覧表を作成し、案件ごとに修正して使えるようにしておくといいでしょう。
売主の登記簿住所からの住所変更の有無、買主の売買物件への住民票移動の有無、買主の住宅用家屋証明書の適用の有無等に注意して案内します。
売主又は買主が、決済当日に欠席する場合には、事前に必要書類を預からなければいけないため、余裕をもって送ってほしい旨を伝えます。
登記費用
登記内容が確定したタイミングで見積書を作成して、不動産会社に案内します。
不動産会社から送ってもらった評価証明書が最新のものでない場合には、空いているスペースに、「令和〇年度の不動産評価額にて登録免許税を算出」と記載しておくとよいでしょう。
住宅用家屋証明書の適用の有無は、登録免許税に大きく影響するため、注意が必要です。
決済当日
登記簿の内容に変更がないか確認
決済当日又は前日の法務局閉庁後に登記情報を取得して、事前に確認していた登記簿の内容から変更がないかを確認します。
登記簿のオンライン化以前は、法務局に行って登記簿を閲覧していた名残から、登記情報の取得を「閲覧確認」ということもあります。
登記申請中で登記情報が取得できない、差押登記がされている等、不測の事態が生じた場合には、早急に関係者に連絡し、事実確認と対応方法の相談をします。
決済立会
決済場所への移動
あせってミスをしないためにも、余裕をもって決済場所に移動します。
私の場合は、決済開始時間の20分前には到着できるように移動します。
当事者にあいさつをする
当事者一人一人に名刺を渡してあいさつをします。
本人確認
いわゆる「人・物・意思の確認」の人の確認です。
令和6年4月1日以降は改正犯収法が施行され、個人の場合には売買目的、職業、法人の場合には売買目的、事業内容、実質的支配者の聞き取りも必要になりました。
実質的支配者は、決済時に質問しても担当者が把握していない可能性があるため、事前に質問リスト等を作成して案内しておくことがよいでしょう。
個人と法人の本人確認は次のように行います。
- 個人の場合
身分証明書(顔写真付きのものが望ましい)の提示を受けコピーを取る。氏名、住所、生年月日を確認する。売買目的と職業を聞き取る。必要に応じて、干支等、本人でないとわからないことを質問する。 - 法人の場合
決済当日までに、法人の登記事項証明書を取得して事業内容を確認する。担当者に身分証明書の提示を受けコピーを取る。担当者が代表者でない場合には、業務権限証明書に会社印を押してもらう。事前に確認していなければ、売買目的、実質的支配者を聞き取る
意思確認
物・意思の確認です。
少し形式的な確認ですが、売主及び買主に対して、次のことを確認します。
- 売買対象物件が間違いないか
登記情報又は売買契約書を提示して確認してもらいます - 売買の事実と申請する登記内容が間違いないか
登記書類を確認する
持参してもらった必要書類に間違いがないかを確認します。
作成した登記委任状等に署名捺印をいただき、実印の捺印が必要な場合には、印鑑証明書で印影を確認します。
登記書類の漏れがないように、チェックリストを作成しておくとよいでしょう。
登記書類に問題がなければ、送金をお願いします。
金融機関によっては、午後2時以降の振込みが当日扱いではなく、翌日扱いになってしまう可能性があるため、決済開始時間が遅い場合には注意します。
着金確認
早ければ、送金から15分ほどで売主への着金確認ができます。
月末等取引が多い日は、1時間以上待っても着金確認ができないこともありますので、心しておきましょう。
抹消金融機関がノンバンクの場合には、売主への着金確認後にもう一度送金が必要なため、少し時間がかかります。
場合によっては、売主を通さないで、買主から直接抹消金融機関に送金することがあるかもしれませんが、その場合には、振込依頼人名を売主の名前に変更しなければ、抹消金融機関側で処理できない可能性があるため、注意が必要です。
売主への着金は、次のような方法で適宜確認します。
- 抹消金融機関に電話をする
- 銀行ATMで記帳する
- ネット口座であれば、携帯等で確認する
おわりに
不動産決済立会業務は、細かい注意点が多く、慣れないうちは不安が多い仕事かもしれません。
慣れないうちは、やるべきことのチェックリストを作る等、できるだけミスをしない工夫をしましょう。